(後編)コロナウイルス(COVID-19)のワクチン開発に参入すべきか、戦略コンサルタントが考察してみた
皆さま、こんにちは!
今回も続けて、ある製薬会社がコロナのワクチン開発を進めるかどうかについて、戦略コンサルタントに相談依頼した、という設定で進めていきます。
前回は、ビジネスの数値分析とマクロ環境分析を行いました。
数値分析の過程で、より詳しくワクチン開発の現状やクライアント企業の情報を知る必要が出てきたため、環境分析をさらに進めていきます。
それと、数値分析や環境分析という用語は、私の造語で、本には載っていません。本チャンネルでは、自分独自のやり方や考え方が含まれています。あらかじめご了承ください。
それでは始めます。
1. ビジネス環境分析
市場・顧客
まず、市場の分析についてです。
現在の製薬市場における、ワクチンのニーズが非常に高いのは明らかですが、将来このニーズが、一時の過剰な供給によって飽和する可能性がないかを注視した方が良いと感じています。
また、クライアント企業の市場における位置づけをポジショニング分析で把握しておきたいですね。
顧客の分析については、現状の製品を誰がどのように買ってくれているのかを知り、その上でコロナワクチンが製品化出来た時に、既存顧客にそのまま販売できるのか、または新規に顧客を開拓する必要が出てくるのかもあらかじめ知りたいです。
クライアント企業
クライアント企業の分析については、経営資源として「人・物・金・情報」の確認をしておきます。
例えば、優秀な人材を揃えられそうかどうか、設備や機器は準備できそうか、ワクチン開発のノウハウはあるか、資金はあるか、または集められるかについてまとめておく必要があります。
競合企業
競合分析については、ライバル企業がどこかをまず知り、彼らがワクチンの開発を検討しているかどうかの情報を最優先で収集します。
もし先方が参入を検討しているのであれば、ワクチンの開発力・販売力がどれだけあるかを把握するために、競合の製薬市場での立ち位置、顧客は誰か、どういう製品を扱っているかを調査、そして人材・設備・資金力・技術力などを分析し、ブランドとしてどのように認知されているかを知ります。
そしてもし、先方が開発する意思があるようなら、クライアント企業が優位性を保てるかどうかを考え、難しそうであれば、身を引く提案をする事も考えます。
協力者
最後に、協力関係を結べそうな所を全て検討します。
この場合は、優先とすべき所から述べると、公的機関、金融機関、マスコミ、サプライヤーなどでしょうか?
そして、可能であれば、同業者や外部コンサルタントとの協力関係を築いても良さそうです。
これだけの情報が集まれば、もっと詳細にビジネス数値分析が進められそうなので、そちらに戻ります。
2. ビジネス数値分析
ワクチンを開発した場合の想定費用見積もり
まず、ワクチン開発を行った場合の費用項目の金額がどのように変わるかを見てみますと、人件費と臨床試験の費用が大幅に増える事がわかりました。
おそらく、ワクチン開発の臨床試験を大量に行なわなくてはならないため、関連する人件費が増えていると考えられます。
なので、臨床試験の項目をもう少し詳しく見ていきます。
臨床試験で実施される、ワクチン開発のプロセス
臨床試験はステージごとに行われ、例えばステージ1では5%の確率で試験をパスし、ステージ2は20%の確率、ステージ3は30%、最終ステージは40%、そして認証される確率は50%とします。
そうなると、例えば1000の試薬をテストすると、ステージ1で50の試薬が残り、ステージ2で10の試薬、ステージ3で3、最終ステージで1.2の試薬が残ります。
そして、承認の段階で0.6となりますので、確率的にワクチンは一つもできない事になります。
投入される試薬の量、またはステージごとの確率を増やした場合
では、この場合どうすれば良いかと言うと、1つ目の案とすれば、投入する試薬の数を増やせば、ワクチンが出来上がる可能性は高くなります。
例えば1000ではなく、倍の2000の試薬をテストすると、ステージ1で100の試薬が残り、ステージ2で20の試薬、ステージ3で6、最終ステージで2.4の試薬が残ります。
そして、承認の段階で1.2となりますので、最低1つの試薬がワクチンとして認められる事になります。
二つ目の案は、ステージごとの確率を増やせないかの検討です。例えば、5%の確率を10%に上げられれば、結果は倍になりますね。
ただし、いずれの案にしても、成功する確率は高くなる分、コストも跳ね上がるので、現実的ではないと思います。
製品3つのポートフォリオを修正し、浮いたリソースをワクチン開発に振り分ける
なので、3つ目の案として、今販売している3つの製品のポートフォリオを修正できないか、を検討してみたいと思います。
例えば、売上の方を見てみると、現在出している製品Cは、売上高も少なく、下落傾向です。
よって、今後もこの傾向が続きそうであれば、製品Cの製造・販売を取りやめて、その分の浮いた資金や人材を、ワクチンの開発に振り分ける、という方法も考えられると思います。
それにより、投入する試薬の量を増やしたり、ステージごとの成功確率を高める事が可能になるかもしれません。
現実には、こんなに簡単に進められるわけないですけれども、全体像としてはこんな感じでやっているんじゃないかと想像します。
開発したワクチンの、売上見込み推定が可能になる
最後に、ワクチンの市場規模推定のデータと、はじめに行った環境分析で得た様々な情報を基に、クライアント企業が開発したワクチンがどれだけ売れそうかの、推定計算も可能になると思います。
具体的な計算方法は、前の記事でご紹介した推定計算の方法と大体同じになります。
3. まとめ
以上、製薬会社がコロナウイルスのワクチン開発を進めるかどうかを判断する際に、自分だったらこのように進めるだろう、というプロセスを説明しました。
このような分析を行った結果、経営資源の許容範囲で行える投資で、かつ売上が上がるのであれば、利益も確保できる可能性が高くなるため、クライアントも納得しやすくなるのでは?と思います。
念のため、今回の考察の目的は、考え方のプロセスや、考慮すべき要素の全体像を示す事です。
製薬会社で働いた事はありませんので、臨床試験の内容など間違っておりましたらすみません。
実際のお仕事では、クライアントの依頼内容通り、最終的にワクチン開発に参加すべきかどうかの答えを、根拠を基に示す必要があります。
ご覧いただき、ありがとうございました。