妙なる畑に立ちて

自然農法の第一人者として有名な川口由一さんの本です。自然や社会のあり方を考えさせるきっかけになった非常に素晴らしい本だと思います。よろずのバイブルとなっています。

この「妙なる畑に立ちて」をどのようにレビューするか正直迷いました。なぜかと言うと、私の文章力で川口さんを説明できる自信がないからです。それにボリュームもありますし内容もかなり深いので、多分万人向けではないと思います。

初心者向けとして「川口由一の自然農というしあわせ」というDVDが出ていますので、まずはそちらを購入された方が川口さん本人の人柄がわかりやすいですし、自然農法を動画で見られるので全体像を把握しやすいかもしれません。ただし、自然農法の詳細やその土台となる哲学を知りたければ、本書を読んだ方が詳しくその理由も書いてあるため分かりやすいでしょう。

本書に書かれている中から一つのトピックを抜き出して紹介します。

川口さんは本の中で知識を3つの知「世間知」、「分別知」、「無差別知」に分類してそれらが何なのか、何が重要なことなのかを現実を例にとって語られています。これらの言葉は元々仏教にあったらしいのですが、その意味が理解できてくると、私が疑問に思っていた悩みや矛盾も芋づる式に理解が進むようになりました。本書によると、3つの知の中で「無差別知」が最高の知ということです。読んで字のごとく物事に別を付けない知識や知恵ということなんだと思います。よろずの目指している総合的な学びも、この「無差別知」の一部なんだと思います。

重要なことなのでもう少し詳しく説明していきます。

分別知:
まずは分別知に関してですが、名前から分かるように物事を分けたり別を付ける知(知識や知恵)です。この知は「一方明むれば、一方暗しの知」と言われています。子供の頃から私たちは国語、算数、理科、社会などと最初から学科を分けて学びますよね。ですからこれらも分別知の一種かもしれません。

なぜこの知が明暗に分かれるかと言うと、例えば経済の分野で社会を発展させようと頑張っている人がいるとします。経済の合理性を付き進めると、大抵自然は破壊されていきます。一方を良くすると一方が悪くなってしまいます。他に私の高校時代の話をすると、その頃は理系を選択しました。その時から20代の中盤までずっと理系のことしか勉強せず、文学などに興味も持ちませんでした。つまり、理系の知識を深めるために文系の知識を犠牲にしてしまいました。ちなみに私が文学に興味を持たなかったのは、世間知(常識や慣習)によるものです。自分の受験に直接影響がないのに、文学を学ぶのは時間の無駄にしか思えませんでした。

他の例もいくつか挙げると:
農業で雑草や害虫を排除するために農薬を使うとします。農薬を使うことで雑草も生えなくなりましたし、害虫もいなくなりました。おかげで虫食いがない綺麗な野菜が育ちました。めでたし、めでたし……………というわけには現実はいきません。例えば農薬を使用した反動で、より耐性の強い害虫が生まれるかもしれません。そもそも虫にとって毒なものが人にとって安全と言えるのか?という農薬を長期的に使用した場合の安全性に対する不安もあるでしょう。さらに一部の場所の特定の草や虫を排除するわけですから、生態系にも影響が出てくるかもしれません。

原発も同じ理屈で、安く電力を安定的に作ることができますから、非常に理想的な発電方法なのだと思います。そのおかげで停電もめったに起こさず、日本社会の経済的発展をエネルギー分野で何十年も支え続けてきた立役者とも言えるかもしれません。しかし、一旦事故が起こると悲劇的な災害になる可能性があります。これほど明暗が一瞬で分かれる例もあまりないでしょう。一応言っておきますが、よろずは脱原発の考えではありません。皆が必要だと考え、リスクも理解した上で原発を続けようというなら、別に構わないと思っています。それにいざっていう時には国防の要になるかもしれませんし。

医療の分野でも場合によっては分別知の一面があると思います。医療技術の発展で多くの人の命が救われています。今まで不治と呼ばれていた病が治せるようになってきています。人の平均寿命が延びたのは良いことだと思います。ただし、その一方で医療費の増大、高齢化社会など、医療の発展と比例して新たな問題が生まれているようにも見えます。

他にも抗生物質などは今まで自分も含めて数えきれない人を救ってきました。しかし、抗生物質の過剰使用により耐性を持った強力なウイルスが生まれ、いずれは抗生物質が利かなくなるという懸念も囁かれています。

また、アレルギーを発症する人(よろずもその一人です)が急激に増えていると聞きました。その要因の一つとして考えられるのが、化学物質の摂取だそうです。昔の人にアレルギーの人が少なかったとするならば、現代の物質的繁栄の代償として、間接的に人の体に悪影響を及ぼした可能性もあるのかもしれません。

無差別知:
無差別知がどういうものか、正直私にもよくわからない部分があります。あまり間違ったことは言いたくないので、詳しくは本書を読んでください。

世間知:
最後に世間知の説明です。この知は川口さんいわく、邪知だそうです。つまり善くない知識や知恵ということなんでしょう。私は多くの部分でこれに同意します。なぜならば、人々が誤った知識(例えば、デマやうわさは当然として、他にも一部の社会的道徳や常識も含む)を元に集まって、誤った方向へ一緒に行動する元凶だと思うからです。一方、それらの世間知には世の中に必要なものもあるとは思います。

例を挙げると:
現代の日本は民主主義社会です。それが常識ですし正しいと皆が思っていると思います。では、江戸時代に当時の人が民主主義を主張していたらどうだったでしょうか?身分の別が当たり前の世の中で、差別を無くして皆が平等で政治に参加できる民主主義を主張したとしたら、社会を困惑させる危険思想として扱われたと思います。常識の定義は移ろいやすいものです。当たり前のことや正しいと思ったことも、時間が経てば変わるかもしれません。今生きている社会だって、未来の人から見れば私たちが江戸時代を見ているように感じるんでしょう。

他にも例えば、農業で雑草や害虫を排除するために村全体で農薬を使うとします。去年その農薬を使った人たちの中で体調が悪くなる人が出ました。そこで農薬の安全性が疑わしいとして、今年は使用を止めようと一部の人たちが反対しました。しかし国で認可された薬で毎年どこの村でも使っているから安全なはずだし、それにうちだけ止めるわけにいかないとしてその農薬を使用することが決定しました。ここでは「国で認可された薬で、毎年どこの村でも使っているから安全」という常識(というか思い込み)と、「うちだけ止めるわけにはいかない」という横並びの慣習によって、農薬使用を決定したことが世間知による影響です。もしかしたら隣の村も同じ理屈で農薬使用を決定しているかもしれません。現実を無視して常識や慣習を元に曖昧な理由で判断しています。

原発でいえば安全神話が該当するでしょう。私もそうでしたが、なぜか原発は絶対事故を起こさないと思っていましたし、事故の危険性を訴える人を変な目でずっと見てきたような記憶があります。人々の願望がいつのまにか常識や事実になっちゃったんでしょう。

最後に

下記のどれかの項目に強い関心がある人は、DVDと共に本書も手に取って読んでみてください。

1. 自然農法に興味がある方
2. 化学物質による環境汚染など、自然保護に関心のある方
3. 総合的な学びに興味のある方
4. 迷いがある方

川口さんは私にとって心の師匠みたいな存在ですが、だからといって語られていることをすべてを鵜呑みにするつもりはありません。自分の知識を増やし、考えをまとめるための手助けをしていただいているという認識で本書を読ませていただきました。

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