新装版 漢方医学

本書は漢方が明治時代に一時期衰退し、世の中に再認識され大衆化しはじめた頃に刊行された漢方医学の入門書となります。私は自分の健康や体の不調部分を解決する糸口があればと独学で勉強している分野です。

漢方薬ブームの功罪

初めの方で著者は「漢方ブーム」という言葉に腹が立ってくるとおっしゃっています。私自身も昨今のビジネス色の強い「漢方ブーム」には不快感があります。なぜならば、それは一過性のものであっていずれは必ず衰退する類のものですから、漢方が仮にブームになった所で碌なことにならないのはわかっているからです。

健康食品などがそうですが、特定のモノや成分に注目して、それだけで健康になったり症状が改善されると思わせるような広告手法は、見ていると首を傾げたくなります。以前健康ダイエットとしてこんにゃくやらリンゴやら寒天などが大々的に宣伝されていましたが、いつの間にかそのようなコマーシャルが全く見られなくなりました。それらのダイエット法を現在でも熱心に実践している人はどれだけいるんでしょうか。まるで古くなった情報は、情報としての価値だけでなくダイエットの効力そのものがなくなるみたいです。

私はブームを悪だと思っていますが、その理由の大きな一つとして本当に必要な人に適正価格で商品が手に入らなくことが挙げられます。特に漢方がブームになってしまうと札束で買い占める人たちが必ず出てきますから、本当に困る人が続出するでしょう。お金のない人ほど困ります。その後、ブームに乗じて安かろう悪かろうの品質や安全性の不確かな生薬が市場に大量に出回ることも容易に想像が付きます。

著者が経験した健康と食べ物の関係

本書の著者は、目の病気で一時期失明寸前にまでなったことがあります。漢方はたとえ目の病気であっても目だけを診ずに全身を診て、全身の調和を整えれば目の病気も治るという考えが建前ですから、普段の飲食物も健康を考慮して根本的に変えました。そのおかげか、結果的に失明もせずにその後も元気に生活ができたわけですが、それが単なるホメオパシーなのかそれとも食事療法が効いたのかはわかりません。しかし、正しい食生活を行ったことで治ったことに変わりはないわけで、これも治療の一つと言えると思います。私自身、長年続けてきた不規則な生活が現在の体調不良に繋がっているのかもしれません。不規則な生活だけでは説明が付かない事もあったりするのですが、まずは基本の規則正しい生活に戻す努力をしています。これも一つの治療と言えるんじゃないでしょうか。

漢方の考え方の一つとして、患者の個人差を重視するということが上げられます。同じ病気に罹っても、体質が違い、生活・環境が異なれば治療法も異なるのは当然です。例えばタバコを毎日吸っていても長生きする人はいますし、逆に健康に気を付けていても早死にする人もいます。世の中には必ず例外がいるわけで、万人に正しい健康法や医療法はないと私も著者同様思います。

「鵜の真似をする烏(カラス)にならないよう、「自分を知る」ことが大切である」とおっしゃっていますが、まったく同感です。

漢方医学の変遷

この章では漢方の歴史を中国の視点と日本の視点から見ていきます。個人的に歴史にはあまり興味がないのですが、医学を学ぶ上で全く知らないのも良くないと思いますので一通り読みました。個人名がたくさん出てきますから誰が誰だかよくわからなくなりますが、要するに漢方を学ぶにはその原点である「傷寒論」や「金匱要略」を読むことが重要だということです。後世の著名な漢方の医学家の多くが原著の内容を自分なりに解釈したり削除したりしているので、漢方と一口に言っても様々な考え方が存在します。本書の著者が最後の方で「散木になるな」と書いていますが、自分の軸となる考え方が身に付いていないといろいろ混乱する可能性があるからでしょう。

漢方の診断

読んで字のごとくここでは漢方の診断方法について書かれています。漢方の病名は病気の症状から取ったものが多いそうです。ただし、病名だけで治療法を決めるのは危険で、さらに漢方の病名を近代医学の病名に当てはめて治療法を決めるのはもっと危険だと著者は警告しています。

漢方は「証」を診断して証によって治療法を決めるという独特な診断方法があります。ですから長所として、仮に病名の診断が間違っていても正しい治療を行うことが可能ということです。では「証」とは何か?という疑問が出てきますが、詳しくは本書を読んでいただければと思います。

「陰陽」や「虚実」という概念も説明していますが、あくまで紹介程度の内容なのでこの本だけで診断方法の全貌を学ぶことはできません。後「四診」とも呼ばれる「望診」「聞診」「問診」「切診」の仕方が書かれていますが、仮にそれぞれを別箇に理解できたとしても、それらを総合的に判断する指標がよくわかりません。総合的で実践的な診断を行うためには別の書籍も何冊か読む必要があると思いました。

薬方解説と症状別治療

もし私のような素人が自分の症状に適応するような漢方薬を見つけようとするならば、本書だと「薬方解説」か「症状別治療」の章に書かれている内容を参考にすると良いと思います。全体的に内容が初心者向けですが、一部の漢字が難しくて読みづらく感じることもあります。多くの病名や薬方には振り仮名が振ってあるんですが、初心者の私にはもう少し詳細に読み仮名が知りたかったです。たまに漢字の読み方がわからずに有耶無耶のまま読み進めました。

薬物集

この章では漢方で使われるそれぞれの生薬について簡単に説明してあります。個人的に非常に参考になった部分です。要は処方の際、これらの生薬を組み合わせて作るのですから、それぞれの生薬の原料や効能について個別に知っておくことは基本中の基本です。例えば、漢字だけで生薬名が書かれていると一般人には取っ付きがたいですが、中には熟したミカンの皮「橘皮」や、ネギの白い茎の部分「葱白」など、普段私たちが食べているような物も生薬として利用する場合がありますので、全てが未知の薬というわけではありません。

(付録)漢方医学を研究せんとする人のために

最後の付録部分で基本的な心構えや効率的に学ぶ方法についてアドバイスされています。

その中で、医学を学ぶために「志を立てること」と語られていますが、実際10代の頃にお医者さんを目指す決断をする学生は皆さんそれなりの動機があったのでしょうか?知り合いにお医者さんがいませんから、なぜ医学の道を志すようになったのか個人的に興味があります。

「白紙に返して漢方と取り組む」とは、漢方に対する世間的な偏見や近代医学の否定的な意見を気にせずまず勉強しろ、ということだと思います。世間的に漢方は胡散臭く見られがちですし、近代医学の観点からも科学的に実証されていない医療方法として批判的に考えるお医者さんも多いことでしょう。これらは世間知(邪知)や分別智(一明一暗)に関係することですが、世間知に対しては惑わされないように自分の意志をしっかりと持ち、分別智に対しては理論的な批判に対して真っ向から反論せずに問題に深入りしないことが重要だと思います。

他に「師匠につくように」と書かれていますが、これは私には無理ですね。独学で学べるところまで学ぶだけです。

まとめ:

一口に漢方と言っても、中国から渡来した漢方を日本人用にアレンジした「和漢(日本漢方)」と中国古来の「中医学」に分類されると何かで読んだ覚えがあります。本書は多分和漢に類する書籍だと思います。例えば、この漢方薬にはこの症状が目標になるとか、その逆にこの症状にはこの漢方薬が良いというような説明なので、わかりやすくて非常に参考になったのですが、私が本来学びたい中医学とは多少異なると思われます。

別に漢方のお医者さんになることを目指すわけではありませんので(可能だったら医者になりたいですけどね!)、全体の理論や考え方を重点的に理解するように努め、個別の生薬や漢方薬の効能についてはその都度本書などを参考にしながら学べばよいと思っています。

補足:

他のページでも若干書きましたが、私は漢方を含めた東洋医学が今後の日本の救世主になると考えています。莫大な医療費は健康保険に大きな負担として今後のしかかってくるはずですから、医療保険に入れない人もたくさん出てくるでしょう。多分私も例外ではないと思いますが、だからこそ今から漢方などの医学を学んでいるわけです。自分でできることは出来るだけ自分自身で行い、それでも駄目なら自分の運命を受け入れようと考えています。

最近では健康保険料を支払ったために、自分の生活費がなくなって犯罪をおこす人も出てきました。そのような現状を見ると、自分のために生きているのか、それとも社会のために生かされているのか分からなくなってしまいますから、どこかで割り切る考えが必要だと思います。

以前ある先生に言われたことなんですが、現在の漢方医療では誠実なお医者さんもたくさんいますが、中には自由診療という名目で治療やお薬に高額な値段を吹っかける人もいらっしゃるそうです。漢方の場合保険が効かないことも多いですから、診療代はそのお医者さんが自由に決めることができます。医療の値段が適正かどうかは素人では判断しようがありません。

漢方薬は一般的に値段が高い割に西洋薬と比べて効能が弱いですから(その分副作用も少ないですけど)、効くかどうかわからないのに皆さん高いお金を出すわけです。仮に効かなくても漢方なんだから仕方ないで済まされることもあるかもしれません。効能がはっきりしないと医者の腕が良いのか悪いのか中々判断が付かない場合がありますから難しい部分はあると思います。

ですから薬が効こうが効くまいが、とにかくまずは漢方薬を安く手に入れられる社会環境を整えることが重要だと考えています。現在は大半の生薬を中国から輸入していますが、まずは日本で自給体制を整える(現実には難しいと聞きますけど)ことが第一だと思います。

以前も書いたことですが、もし私の体が一日8時間の肉体労働に耐えられるならば、食料や漢方の生薬を育てる農業中心の「百姓」になる予定でした。そのようにして医療や食料の自給を目指す社会の一助になりたかったのですが、現状では出来そうにないので今はネットを中心とした総合的な意味での「百姓」になろうといろいろ模索しています。よろずは深く考えるということも才能の一つですから、それを生かせればいいんですけどね。

いずれにしろ、漢方薬を一般人が保険を使わなくても安く手に入れられる社会環境になれば理想的です。決して漢方をブームなどのような金儲けのための道具にしてはいけません。最近農業を志す人が多いと聞きますが、その動機が自分の生計を立てるためだけであれば、大局的な問題は何も解決しないでしょう。現在多くの食べ物に化学薬品や農薬が混入していますが、そのような現状は自分の生計を維持するためだけに他人を省みないことで起きている必然であり結果ですから、その流れをどこかで断つ必要があります。

おわり

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