小泉親子は陽明学を学んでいる

今日は、大橋健二著の『気の文明と気の哲学』を読んでいた時に、小泉純一郎元首相と陽明学の逸話がありましたので、息子の進次郎議員も含めて陽明学との関係について考えてみたいと思います。

小泉純一郎元首相と陽明学の関係

大橋氏の書物によると、小泉元首相(以降小泉さんと呼びます)は、幕末に活躍した高杉晋作や吉田松陰を尊敬しているそうです。両者とも陽明学を深く学んで、自分の信念を行動に移して若くして亡くなりましたが、どういう点に敬意を抱いたのか興味があります。

小泉さんはまだ首相になる前の政治家だった時、周囲から「変人」と呼ばれていたことがありました。もしかしたら、同じく常識に捉われずに「奇兵隊」を組織した高杉晋作の人がらとは、気質的に共感できる部分があったのかもしれません。

また、首相は昔、田中真紀子外相を更迭したことがあります。それが起きた以前の裏話だと思いますが、不手際続きだった真紀子外相に佐藤一斎著の『重職心得箇条』という本を贈ったそうです。著者の佐藤一斎は、表向きは官学の朱子学を奉じていましたが、実際は陽明学にも深く通じており、たくさんの偉人を後世に輩出した非常に優秀な儒者です。

このようにして見ると、小泉さんは陽明学の深い影響を受けていると考えた方が自然です。確かにそのお人柄や首相当時の行動力を思い出してみると、良くも悪くも納得できる部分が多々あります。

陽明学の真骨頂は、「心の純粋さと、信念の実行を重視する」点にあるんですが、一方でその学問の弊害は、「自分の良知を信じる余りに、周りの言う事に耳を傾けず、独善で突っ走る傾向」があります。まさにその通りの行動をしてきた人で、なんて言うか典型的な陽明学徒だと思います。

この時、私はオーストラリアで学生をしていましたが、清掃のアルバイトをやっていた時に、オーナーが小泉元首相のことを、「Interesting」と言っていたのを覚えています。今までの日本の総理大臣の中で、外国人にちゃんと名前を覚えてもらえた稀有な首相でした。私も当時、「面白い人だな」と思いながらテレビやネットの情報を見ていました。

小泉進次郎議員と陽明学の関係

次は、小泉進次郎議員(以下進次郎氏と呼びます)について考えてみたいと思います。彼はまだ若いのに、自分の意見を主張しつつ、慎みの態度も持っているので、若い人からお年寄りまで人気の政治家です。彼は小泉元首相の息子ですから、当然陽明学を含む儒学には若い頃から慣れ親しんでいると思われます。

というか、彼の振る舞いやしゃべり方が父親とそっくりな事を考慮すると、学問の影響よりも親の影響が一番大きいんじゃないかと感じます。

私は儒教を含めた自己修養の学問を、全部独学で学んできましたが、やはり一番安全確実なのは信頼できる親や師匠に付いて学ぶことなのかもしれません。もちろん、自分に合った教師であれば、の話ですけど。

1. 進次郎議員は陽明学だけを学んだのではない(たぶん)

進次郎氏を見ていると、親の純一郎氏とは若干行動や質疑応答の受け答えが異なる事に気づくと思います。親の方は、まさに陽明学者の長所と短所を地で行くんですが、進次郎氏からはそれに加えて丁寧さや慎みなどを感じます。そういう点で、お年寄りにも人気があるんでしょう。

彼は儒教の「修己」のみならず、「治人」の学問も修めているように見えます。陽明学を学んだ治者として、そして政治家として朱子の四書(『大学』『論語』『孟子』『中庸』)位は当然読んでいるでしょうし、もしかしたら儒教以外にも、マキャベリや孫子なども学んでいるかもしれません。

2. 進次郎氏の本音が知りたい

彼がどのように生きてきて、何を学んできたのかが、個人的には興味があります。それを知ることで、多分彼の信念や何を目指しているのかも大体分かるはずですし、その行動を心から信用することもできるようになります。

現状では、他人の粗探しが大好きなマスコミ対策のためか、あまり隙を見せないので、何を考えているのかわからない側面があります。当然政治家として、言質を取られないための対応であることはわかっています。

進次郎氏は本物の政治家だと思いたいですが、直に話し合って本人の本心を知ることでしか、今のところ真偽を確認する術は私にはありません。または、行動と実績を積み重ねることによって、時間が解決してくれることだと思います。

まとめ

純一郎氏も進次郎議員も、陽明学を学んだ事はほぼ確実だと思います。しかし、純一郎氏は純粋な陽明学徒と言えますが、一方の進次郎氏はさらにそれ以外の学問もいろいろ学んでいるように思われます。

少なくとも、儒教の「忠」「孝」「礼」を実践しているのは外見から見て取れます。儒教以外の老荘思想に傾倒している私なんかにはできない芸当ですので、正直尊敬しますし羨ましいです。

ただし、日本陽明学の祖である中江藤樹は、稀代の名君とうたわれた岡山藩主池田光政の熱心な誘いの言葉にも乗らずに、村で学問を教え続けたように、現代でも陽明学はあまり権力構造と結びつかない方が良いと思います。なぜならば、どんな学問も長い間権力と癒着すると、必ず頽廃してくるからです。特に陽明学は、良くも悪くも強い信念を持って果断に行動する人達を生み出す傾向が強いですから、民に対する情の心がない独善的な人間が権力を持つと、手が付けられなくなる可能性があります。

小泉元首相が郵政改革を行った当時、あれだけ周りから強い批判があったのに、誰も止められなかったのを覚えていると思います。それだけ自分の信念に沿って突き進むパワーがあるという事です。彼は引き際を心得ていたので、それが最大の美点でした。

元々陽明学は、朱子学のアンチテーゼとして生まれた学問です。ですから、朱子の四書五経を学ぶ事が大前提となります。陽明学だけを学んでも得る所はあるでしょうが、前述したように悪弊も大きいので、誤解して学ぶと却って自らの害になる可能性すらあるかもしれません。理論は単純ですが、気軽に学ぶような学問ではないことを念のために付け加えておきます。学ぶ際は本物の志士になる覚悟で、真剣に勉強していただくことを願っています。

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