はじめての漢方医学

本書はタイトルにもある通り、漢方がどういうものかを知るための初心者にとってちょうど良い本だと思います。どちらかというと、漢方のことを知らない一般人の方を対象に書いてありますので、漢方専門医に受診してもらう際にどういう診療を行い、受診者が診察を受ける前に気を付けるべきことなどが書いてあります。最初の本としてお勧めです。

他の漢方関連の書物は医者を志す方を対象にしていることが多いので、一般人を対象にしているという点で特徴的な本だと思います。漢方を本気で学びたい方も、この本を足掛かりにして専門の書物に進めば、いきなり専門書から読み始めるよりは全体の理解もしやすくなると思います。

漢方薬は世間でもそこかしこで頻繁に見られるようになってきています。以前は漢方と言えば、疑いの目で見られていた時期もありますが、ここ最近その有効性が見直され、西洋医学中心だった医療にも東洋医学の考えが取り入れられるようになりました。

著者の方はお医者さんで、漢方の理論と実際の効能をわかりやすく説明されています。まず本の最初の方では、漢方治療がどのようなものかを読者にイメージしやすくするために、実際の診療風景の流れで説明されています。ここから全体の医療の流れがわかるので助かります。

漢方医が一般医の診察方法と多少異なることも説明されています。四診(望診、問診、聞診、切診)を行い、証を取ることが漢方医学の目的です。その証により、処方される薬が決定されます。私が漢方に興味があるのも、専門の医療機器や電気を使用しなくても判断できる所にあります。

下痢や便秘でも、又は高血圧や低血圧でも、それぞれ同じ漢方薬を処方します。症状で薬が変わるのではなく、証で処方される漢方薬が変わります。高血圧でも低血圧でも同じ証であれば、同じ薬となるわけです。非常に面白い考え方だと思いますし、私にとっては受け入れやすい考え方です。でも実際は患者さんの状態が一人一人細かく違うわけですから、薬の配合を柔軟に調節することが大切だとも言われています。

漢方(中医学)は、しっかりと体系づけられた理論によって診断したり薬を処方したりします。全体を見ながら対症療法と共に原因療法を行うのが漢方なので、症状のある一部分だけを診たり治すわけではありません。そのため、患者の側にもある程度漢方に対する理解が必要だと読んでいて感じます。つまり、お腹と全く関係ない症状で来院したのに、医者がお腹を診るのはちゃんと理由があるということです。それを知らないと、普通の人はちんぷんかんぷんで漢方が得体のしれないもの、という印象を強める結果になると思います。

本書では漢方が万能ではなく、限界があることにも触れています。基本的には漢方エキスや生薬を煎じて飲んで、体の内から治すことを目的とします。この性質上、漢方薬にも得手不得手があります。急性の症状よりは、慢性の症状に用いられることが多いです。著者はあくまで西洋医学を中心にしつつ、漢方は必要に応じて医療に積極的に取り入れるというスタイルみたいです。

巷で自然の薬草だから安全だという思い込みを一般人に誤解を与えかねない風潮にも、著者は注意を促しています。一般薬よりは確かに副作用は少なく安全だとのことですが、それでも一部使用法に気を付けなければならない組み合わせがあるとのことです。知られていない副作用もありますし、薬である以上使いようによっては毒にもなるということです。

後、本書に書かれている内容だけで適切な漢方薬を自分で選択できるようになるわけではありませんので、お気を付け下さい。あくまでも素人が漢方の治療を受ける際に、専門医のお医者さんが言っていることの理解を助けることが本書の目的です。著者は本の中で、漢方治療は自分で行わず専門医に診てもらうように再三促しています。

個人的主観による感想

私の場合、自分である程度健康状態を管理するために、東洋医学や民間療法の勉強に興味があるんですが、その他にも今後の世の中の状況をあんまり楽観視していないからということもあります。

そもそも社会全体が安定していて、健康保険が気軽に適用できる医療システムであれば、著者のおっしゃる通り西洋医学をベースに診療して、漢方は患者さんの状態や要望によって柔軟に使い分けるのが良いと私も思います。当然素人判断をしないで、専門医にかかるように念を押されるのも尤もな話です。

しかし漢方の一番の強みは手軽さにあると思います。本書でも書かれている通り、一般的に漢方薬は西洋の薬と比べて効き目が薄いことが多いんですが、それは言い換えると副作用も比較的少ないということです。多少薬を間違えて服用しても、すぐに生命がどうこうなることは非常にまれなケースだと本書を読んでも感じました。

でしたらもっと国民にも生薬など手軽に入手できるような社会構造にしてもらいたいと願ってやみません。現在の医療は健康保険を適用することが前提での値段設定になっています。今の所は多くの国民が最先端の医療を手軽に受けられる状況ですが、今後もこのような社会が続くとは私は思っていません。

そのために私は東洋医学を勉強しているのですから。今の所漢方は、西洋医学で治らない人の最後の砦だったり、お金を持っている人が自費診療で医療を受ける場所の印象が強いです。つまり、まだまだ一般の人には敷居が高いと感じます。

リンク

本の詳細・他の方の感想・購入に興味のある方は、こちらをクリックしてください。