農家が教える自給農業のはじめ方

本書は新規就農のための入門書という位置付けだと思います。特に自給農業に興味がある人は、私のようにバイブルになるかもしれません。仮に新規就農に興味がなくても、一度は読んでもらいたい本です。

平飼い養鶏で何十年も生きてきた農家の方が、単なる理屈でなく、実践と時間の試練を経て得た知識や技術ですので非常にためになります。

就農に興味のある人たちのために、リスクをできるだけ小さくして少しづつ農業を大きくしていくコツを伝授してくれています。

ただし、これは農業でお金儲けをしようという方のための本ではないのでお気を付け下さい。自分の食い扶持は自分で作るという自給自足の考えが基本です。

具体的には、まず「肥料の自給」を行うために、50羽程のニワトリを庭先で飼いながら卵を売って日銭を稼ぎ、食料は不耕起で稲(陸稲)や麦、野菜作りを無農薬で行います。種は自家採種で、山菜も自分で採取、さらに農産加工などまさに百姓として生きていくための総合的知識や実践力が問われます。

本書は100ページ程ですが内容は濃いです。ニワトリを実際に飼ってみたい方は、本書とさらに同著「自然卵養鶏法」や「自給養鶏Q&A」も参考にしてみてください。笹村出さんの書いた「発行利用の自然養鶏」もお勧めです。ただし、他の同著と幾分内容が重複している部分があります。重要な内容だからこそ繰り返して本に載せているとも考えられますので、あまり気にせずに復習のつもりで読むと良いでしょう。

哲学的な内容も書かれており、なぜ自給農業を行うのか納得できると思います。そのような信念が行動の土台にあるからこそ、著者は何十年も続けてこられたんだと思います。

(ペットとして鶏を飼われる方にも、中島さんの書籍はお勧めです。ただし、鶏は野菜栽培などと違って動いたり騒いだりする生き物ですからちゃんと基本的な知識を身に付けた上で、最後まで責任を持って育てていただければと思います。)

それでは各章の感想を簡単に述べていきます。同著「自然卵養鶏法」と重なっていると思われる内容は省略します。

第1章:新規就農のスタートをスムーズにする自然卵養鶏

この章では、平飼い養鶏のメリットやどのように新規就農するのかが事細かに書かれています。

自然卵養鶏を本業としている人が生計を立てるために、どの程度の規模で運営しているか書かれていますし、卵一個をいくらぐらいの相場で売っているのかも目安として書かれているので、非常に参考になると思います。

特に鶏舎の建て方は一番参考になりました。基礎工事でコンクリートブロックを使用したのも、本書に書いてあったからです。私は横桟(外敵を防ぐための壁)をベニヤ板で代用したりなど、そのまま真似はせずアレンジを加えたりもしています。他に、産卵箱や給餌器、すのこ枠、止まり木などは本書を参考にデザインしました。

第2章:荒地の復元と鶏ふんなどの有機質自給肥料の利用

ここでは、適した条件の土地の見つけ方や自給に必要な土地面積などを説明されています。自然に拘る著者がビニール製のマルチ栽培を勧めているのにはちょっと驚きましたが、草刈りの大変さを思えば仕方ないのでしょう。

第3章:イネ(陸稲)とムギ、野菜の自給栽培

イネ(陸稲)とムギの輪作栽培について語られています。水稲が主流の日本では陸稲はなじみが薄いですが、人力で出来るだけ労力を少なく米を栽培するには、この手法しかないと思いました。稲を栽培したらそれらを食べられるように稲刈りをし、脱穀などをする必要がありますが、それらも極力人力で行う方法を書かれています。

後半は野菜の自給栽培法について書かれています。マルチ栽培とうね立て露地栽培に分けて、それぞれに適した野菜を植えることになります。ここでは、他に自家採種の方法や、病気対策、害虫対策、害獣対策などにも触れられています。

贅沢な希望ですが、ここの内容はページ数を増やして写真付きで詳細に説明してもらいたかったです。基本文字だけの説明なので、所々で具体的にどうするのかわかりづらい個所がありました。

第4章:果樹や山菜、薬草の採取と利用

ここでは庭先に果樹を植えたり、山菜取りについて書かれています。果樹植えは広い庭がないとできませんが、山菜取りについては参考になる部分があります。フィールドワークの傍らに今度探してみようと思っています。

第5章:自給に活かす中島流農産加工

柿酢など昔ながらの懐かしい食べ物の作り方を書いてあります。自給した食料で作るのですから、シンプルな料理が多いですね。

第6章:提言―これから農業を始める方へ

この章では著者中島さんの信念が語られています。なぜ自給農業をするのか、その思いが伝わるかと思います。

付録:田舎暮らしを始めるためのワンポイント

自給生活を始めるための様々なアドバイスをされています。本書でも書かれている通り、一番難しいのは自給生活をする場をどうやって見つけるかです。ここらへんが、現代社会の難しい部分じゃないかと思います。

まとめ:

多分よろずが実践できるのは食料の自給自足までだと思います。詳細は何回も説明しているので省きますが、いずれにしろこのような生活はあこがれますね。ただし、仮に私が自給自足生活を実現できたとしても、随分先の話になると思います。

本書は比較的近年に書かれた本なので、別書「自然卵養鶏法」と比較しても読みやすいと思います。内容も現代の社会事情を踏まえて書かれています。しかし、この本はあくまで自給農業のはじめ方です。自然卵養鶏法のはじめ方ではないので、養鶏を本格的に始めたい方は「自然卵養鶏法」などの複数の書籍を参考にしてください。

正直に申しますと、本当に本書に書かれている通り実践して、それで生計を立てられる所まで行けるのか疑問な部分はあったりします。まとまったお金も必要ですし、土地を見つける必要もあります。いろいろ情報を集めていると、この段階で多くの人が挫折しているような気がします。先だったものがないと、自給自足の生活ができないということに矛盾を感じますが、現状そうなっているので現実も考慮しつつ実現性があるかどうかを考える必要があります。

後、本書の初版は2007年ですから、原発事故以前の世の中を前提にして書かれています。原発事故が起きた後は東北や北関東で自然卵の売り上げが急減したという話を聞きました。現在自然卵を生業となされている方が、以前のように商売ができているのか個人的に知りたいです。

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